コラム

時は金なり?

昨今では、ビジネスに限らず日常生活においても、コスパ(費用対効果)であるか、それ以上にタイパ(時間対効果)というものが重要視される様になってまいりました。
オンラインによる会議やレクチャー、リモートワークは、移動が不要のため、時間をより効率良く使う事が可能ですし、また動画を倍速で観たり、ショート動画が好まれたりするのは、少しでも時間を短縮して、動画の内容を把握し、望む情報を得る等したいという事の表れと言えましょう。

最近では、バーや居酒屋等でしか見掛けなくなりましたが、テーブルはあるものの椅子に座らず、立った状態のままで食事をするという、いわゆる「立ち食い」と呼ばれる食堂が、以前はよく駅等にありました。
外回りの営業を行うビジネスマンの男性達が、時間を惜しんでカツ丼やラーメン等を立ったままかきこみ、そそくさと仕事に戻って行く、その様な光景は日常茶飯事でした。
彼らを見て、よくあれほど急いで食べられるなあ、と感心さえしていましたが、思い起こせば、フランスではお昼時に、道を歩きながらバゲットのサンドイッチを頬張っている人の姿を見る事が少なくありません。とりわけ学生や若いビジネスマン達がその様にしており、自らも真似をした経験がありました。
立ったまま、というだけなら何とか耐えられるのですが、歩きながらというのはなかなか難しいもので、元来マルチタスクが苦手な私の様な者には、全く向いていない食事法であるという事がよくわかりました。
ゆっくりと時間を掛けて味わうというヨーロピアン・スタイルの対極にある「立ち食い」が、フランスでは日常的な習慣として行われているという事を知り、当時はいささか驚きを覚えたものでした。

しかし、タイパという言葉を耳にする度に、必要以上に時間を掛ける事が真に無益であるのか、考え込んでしまうのは私だけでしょうか…。
何かを得られるまでとにかく早ければ良い、というのはある種の重要性を欠いた、いわば中身の薄い、軽い産物しか生み出さないかの様に思われてなりません。
敢えて時間を掛けなければ見えてこない、得られないものがある、そうした価値も、ビジネスや勉学には必要ではないかと、デジタル化時代への小さなアンチテーゼとして、アナログ人間の私自身は考えます。

2024.10.31 23:40

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