コラム

「余計なお世話」の正体

よく、謙遜的な意味合いを込められて、「余計なお世話ですが・・・」と枕詞の様に仰って、アドヴァイスを下さる方がいらっしゃるのですが、私自身には、心に響くフレーズであり、大変肯定的にとらえていますので、いつもそのお言葉を有難く頂戴する様にしております。

この「余計なお世話」が大好きなのが、いわゆる人懐っこいと言われるラテンの国々の人々ではないでしょうか。
一見すると少し冷たくも感じられる、彼らの個人主義に基いたライフスタイルはあまりにも有名ですが、実際は、印象として、周りが結構どころか大変気になって仕方がない、正確に言えば放ってはおけずすぐ構いたくなる、という心温かい人々の様に見受けられます。

以前、パリ市内の薬局で、薬を購入した時のお話ですが、帰りに挨拶をしてお店を出ようとしたら、薬剤師さんが、「ちょっと余計なお世話かも知れませんが・・・」、と言って、私を呼び戻したのです。
お会計は済ませて、何か忘れ物でもしたかしら? と不思議に思いましたが、その理由は明らかになりました。
「薬は欧米人の為に一回の服用量が定められているので、あなたは華奢に見えるから、初めは子供用の半分でまず試してみて下さい。あ、もし良かったら、こちらで飲んで帰られたらどうですか?」、と言って、ミネラルウォーターを差し出してくれたのです。
当時、フランスの高カロリーかつ高脂肪食ばかり口にしていた私は、お世辞にもスリムとは言えず、かなりぽっちゃりとしておりましたが、欧米人のボリュームある体型に見慣れている彼らからすれば、東洋人の女性の体つきは、それに比べれば細いと、きっと思えたのでしょう。
私は、その時少し急いでいましたが、決してフランスでは無料でないお水まで用意してくれて、副作用を心配した薬剤師さんの厚意を有難く思いました。
同時に、彼女のプロフェッションの領域に関わる事ですが、この人(=私自身)が本当に半分しか飲まないか、きちんと見届けたいという、無償の「お世話」をしてくれたのだと判りました。

海外の薬は、成分が大変強いので、必ず副作用が出る事が前提です。
人によって様々に異なるでしょうが、例えば欧米で風邪の時に飲むアスピリンでは、私にとっては動悸がして、脈がかなり速くなりますが、解熱作用の効果は抜群で、コンサートの準備をしていて数日前に高熱でダウンした時も、たいそう重宝したお薬でした。
その様な理由からも、人種を異にする者には、副作用を心配して、薬剤師は責任を持って指導をする必要があるという事なのかも知れません。
しかしながら、それは口頭の説明のみで十分できる事であって、実際に行動を起こして私を見届け、「余計なお世話」ではなく、「人を思う事から生まれるお世話」を施してくれた、彼女の人間性の深さを感じ、温かい感謝の気持ちでいっぱいになりました。

小さなお世話も、(良い意味での)大きなお世話も、相手を思うという行為で、最終的には何かを与える事に繋がります。
例えそれが多少迷惑かしら、と思われる様な事でも、また些細な事で、大袈裟ですが、その人の健康や命に関わる様な事であれば、なおさら積極的に「余計なお世話」について、できる限り私自身も考えたいと思っております。
こうした愛を持つ心が薄くなりつつあり、悲しくもありますが、それが今の日本の現実の様です。

2013.07.23 23:20

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