コラム

今年を振り返り考える事~音楽の在るべき場所とは~

さて、今年も残す所、僅かとなりましたが、皆様はこの一年を振り返られて、どの様な年でしたでしょうか。
私自身は、予期しない状況の中で、良き事もまた悪しき事も、様々な意味でのサプライズを経験した貴重な一年となりました。
また、この様な混沌とした時代にあり、音楽を始めとする芸術が、人々に一体何をもたらすのかについて、(否応にも)深く考えさせられた年でした。

音楽に関して言えば、古代ヒポクラスの頃にあっては、人の体に病まいを引き起こすと原因とされた邪気を祓うために、或いは魔除けの目的として用いられ、いわば人々の心身の健康を祈念すべく存在した時代があり、やがて宗教との関わりの中で主要な役割を果たす様になりました。時を経て、19世紀のロマン派と呼ばれる時代においては、“私”という自己の表出のために、アーティストのひとつの表現手段として担われ、また並行してクララ・シューマンやリスト、そしてショパンの奏でる音を求めて会場へ足を運んだ貴族等の上流階級の人々の嗜みともなり、その後はご存じの様に、一般の人々にも広く娯楽として浸透してゆきました。
俯瞰してみますと、音楽はもともと神様の近くに在ったものが、徐々に下へ降りて、即ち大いなるものに属していた所から、私達人間ひとりひとりに与えられる事となり、いわば宇宙という高い所から人々の日常の生活の場に移されて、現在の姿があるという様にも捉えられるのではないでしょうか。

良い言葉では「多様性が認められる」、恐らくそうでない言葉には「あらゆるものも許容され、また拒絶され得る」という表現があてはまる現代の世の中ですが、その様な時代に、芸術はいかにして人々と関わる事が出来るか、また人々に何かを与える事が可能であるのか、またそれでは社会の為に寄与出来る音楽とはどう言ったものであるのかについて、改めて考え直してみたいと思います。

本年も、コンサートへ足をお運び下さり、多くの温かい励ましや応援を頂きました方々へ、心より感謝を申し上げます。
来る年が皆様にとって希望に溢れ、またご自身の想いや夢の実現を叶えるべく、輝かしい年となります事を祈念致しております。

塩見 貴子


2017.12.31 23:35

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